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学会雑誌抄録

『日本甲状腺学会雑誌』2012年10月号(Vol.3 No.2)


[症例報告]

ヨウ化カリウム(KI)の併用によってチアマゾール(MMI)の薬効が阻害されたと考えられた2症例

シリーズ[ちょっとした疑問]

大規模コホート研究による甲状腺癌のリスク要因に関するエビデンス:海藻摂取と甲状腺癌罹患の関連について

[症例報告]

ヨウ化カリウム(KI)の併用によってチアマゾール(MMI)の薬効が阻害されたと考えられた2症例

鶴田 絵里子,高野 徹,日高 洋

* 大阪大学大学院医学系研究科 臨床検査診断学

Key words
抗甲状腺剤(antithyroid drug),ヨウ化カリウム(potassium iodide),併用療法(combined therapy),
エスケープ現象(escape),無効化(attenuated response)

要旨
ヨウ化カリウム(KI)とチアマゾール(MMI)を併用して投与したにも関わらず甲状腺ホルモン値が正常化しなかった症例で,KIを中止することにより劇的に甲状腺機能の改善をみた2症例を経験した。
症例1は25歳女性。KI 100mgを投与し,MMIを60mgまで増量したが,甲状腺ホルモン値が正常化しなかったため当科紹介となった。症例2は62歳女性,6ヵ月間MMI 30mg,ヨウ化カリウム丸50mgにて治療されていたが,甲状腺ホルモン値が正常化せず,手術前の緊急の甲状腺機能改善のため当科紹介となった。いずれの症例もMMIの投与を継続したままKIを中止し,ヨード制限食を指導することで甲状腺ホルモン値は急速に改善し,最終的には少量のMMIのみでのコントロールが可能であった。これらの症例ではKIの併用よってMMIの薬効が阻害されていたものと考えられた。

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シリーズ[ちょっとした疑問]

大規模コホート研究による甲状腺癌のリスク要因に関するエビデンス:海藻摂取と甲状腺癌罹患の関連について

道川 武紘*1,*2,井上 真奈美*1,津金 昌一郎*1
*1 独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究部
*2 独立行政法人国立環境研究所 環境健康研究センター 環境疫学研究室

Key words
海藻(seaweed),ヨウ素(iodine),甲状腺癌(thyroid cancer),多目的コホート研究(JPHC Study)

要旨
甲状腺癌の危険因子あるいは予防因子に関する疫学的知見は,他の癌と比べると圧倒的に少ない。喫煙,飲酒,肥満,といった全癌の危険因子として広く知られている要因であっても,甲状腺癌の原因となりうるのか結論づけるに至っていない。
食事要因としてヨウ素摂取,魚介類やアブラナ科の野菜を中心に,甲状腺癌との関連が検討されてきたが,一貫した結果は得られていない。今回我々は,日本人を対象にした大規模なコホート研究(多目的コホート研究)において,日本人の主要なヨウ素の摂取源である海藻摂取と甲状腺癌罹患との関連を検討した。その結果,閉経後の女性で,海藻摂取が甲状腺癌(とくに乳頭癌)のリスクを上げる可能性が示された。甲状腺癌のリスク要因に関するエビデンスは世界的にも不足しており,今後,さらなる知見を集積する必要がある。

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