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学会雑誌抄録

『日本甲状腺学会雑誌』 2016年4月号(Vol.7 No.1)

[特集1]甲状腺疾患の心身医療 ― 患者中心のチーム医療のために ―

Basedow病の心身医療

甲状腺専門病院における心理臨床

甲状腺疾患患者の看護

放射線と甲状腺とこころ(1) ― 甲状腺二次検査対象者と家族へのサポート ―

放射線と甲状腺とこころ(2) ― 甲状腺癌に直面した小児・若年成人者と家族への支援 ―

[特集2]甲状腺スクリーニングとその問題点

がん検診における不利益

世界的な甲状腺癌の増加と韓国における早期検診による過剰診断について

甲状腺超音波診断の有用性と問題点

福島県「県民健康調査甲状腺検査」結果概要

[症例報告]

DICER1 遺伝子に胚細胞性変異を認めた多結節性甲状腺腫の一家系

心室細動を契機に診断された甲状腺クリーゼの一例

伝染性紅斑により橋本病を発症したと考えられる17 症例

シリーズ[ちょっとした疑問]

第15回国際甲状腺学会(15th ITC)参加報告・聴講記

小児Basedow病患者にPTUは禁忌か?

[特集1]甲状腺疾患の心身医療 ― 患者中心のチーム医療のために ―

Basedow病の心身医療

深尾 篤嗣*1,高松 順太*2,有島 武志*3,岡本 泰之*4,宮内 昭*5,花房 俊昭*6
*1:茨木市保健医療センター所長,*2:高松内科クリニック院長,*3:ありしま内科院長,*4:岡本甲状腺クリニック院長,*5:隈病院院長,*6:堺市立総合医療センター院長

Key words
◉ Basedow病(Gravesʼ disease),◉ストレス(stress),◉ 心理社会的要因(psychosocial factor),
◉ 心身症(psychosomatic disorder),◉ 心身医療(psychosomatic medicine)

要旨
Basedow病は,その存在を知られるようになった当初から,心理社会的要因との関連性が長く議論の的とされてきた。本症に伴う精神障害(Basedow精神病)は従来,甲状腺機能亢進症が原因と考えられてきたが,医療の進歩した現在では,甲状腺機能亢進症以外にさまざまな心理社会的要因が関与していることがわかってきた。また1991年,Winsaらの研究を皮切りにして多くのケースコントロールスタディが発表され,本症の発症や経過とストレス(ライフイベント,日常苛立ち事)との関連についてのエビデンスが集積されてきている。筆者らは各種心理特性と本症の治療経過との関連について調べた結果,増悪因子として,ライフイベント,日常苛立ち事,抑うつ傾向,神経症傾向,アレキシサイミア(失感情言語症),過剰適応傾向,摂食障害,反対に軽快因子として合理的判断力,感情表出力を見出した。以上の心身医学的研究結果を踏まえた,本症に対する心身医療の実際について述べた。

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甲状腺専門病院における心理臨床

田中 美香*1,金山 由美*1,2,河合 俊雄*1,3,桑原 晴子*1,4,山森 路子*5,長谷川 千紘*6,深尾 篤嗣*7
窪田 純久*8,伊藤 充*9,宮内 昭*10
*1:隈病院カウンセリングセンター,*2:京都文教大学臨床心理学部教授,*3:京都大学こころの未来研究センター教授,*4:岡山大学大学院教育学研究科講師,*5:葵橋ファミリー・クリニック,*6:京都文教大学臨床心理学部講師,*7:茨木市保健医療センター所長,*8:くぼたクリニック院長,*9:隈病院内科科長,*10:隈病院院長

Key words
◉ Basedow病(Gravesʼdisease),◉ カウンセリング(counseling),◉ 心理的特徴(psychological characteristics),
◉ 寛解率(remission rate),◉ 甲状腺専門病院(hospital specialized for thyroid care)

要旨
身体疾患であり,心身症との関連も深いとされるBasedow病を中心に,①甲状腺疾患患者の心理的特徴について,②甲状腺専門病院での心理臨床が身体的治療にどのような効果を及ぼすのか,③心理的アプローチに対する課題について述べた。具体的には,Basedow病患者の心理的特徴は意識レベルの質問紙検査ではわかりにくく,投映法など意識レベルより掘り下げてみていく検査法を用いてみる必要がある。カウンセリングを受けている患者よりもカウンセリングを受けていない患者のほうが,甲状腺ホルモンの影響とは関係なく心理的状態が重い場合がある。また,カウンセリングを受けている患者においては,長期間カウンセリングを受けている患者の寛解率のほうが,短期間しか受けていない患者よりも有意に高かった。身体疾患の患者に心理的アプローチをすることは容易ではないが,そうした取り組みがBasedow病の改善につながる可能性が見出された。

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甲状腺疾患患者の看護

安東 夕紀*1,新田 早苗*2,村上 千恵子*3,池田 清子*4,宮内 昭*5
*1:隈病院看護本部外来看護科主任,*2:隈病院看護本部本部長,*3:協会けんぽ兵庫支部,
*4:神戸市看護大学療養生活支援看護学領域慢性病看護学分野教授,*5:隈病院院長

Key words
◉ Basedow病(Gravesʼ Disease),◉ 看護(nursing),◉ 体験(experience),◉ QOL

要旨
甲状腺疾患は,長期にわたり治療や経過観察を必要とする慢性疾患である。慢性疾患看護において,患者が多くの時間を過ごす家庭や生活の場において,病とともに生きることをいかに支援するか,疾患と生活を結び付け1人の生活者として捉える視点が重要である。しかし,甲状腺疾患患者がどのような生活体験をしているのかなど,QOLについての調査も国内外においてほとんど報告がない。そこで,Basedow病患者の体験やQOLについて調査した結果,患者は【他者からの特殊な目】を感じ,【わかってもらえない】という体験をしていた。Basedow病患者のQOLは全体的に低下しており,甲状腺機能亢進の程度とは相関せず,心理的要因による影響が大きいとの報告があるが,今回の調査においても,甲状腺機能が比較的安定した長期療養の患者であっても,QOLは精神的側面で改善しないことが明らかとなった。以上より,看護支援として心理社会的背景に着目した,長期的な精神的サポートの必要性が示唆された。

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放射線と甲状腺とこころ(1) ― 甲状腺二次検査対象者と家族へのサポート ―

八木 亜紀子
福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センター放射線医学県民健康管理センター特任准教授/福島県

Key words
◉ 県民健康調査(Fukushima Health Management Survey),◉ 甲状腺(thyroid),
◉ こころ(mental health),◉ サポート(support),◉ 家族(family)

要旨
福島県では,東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を受け,「県民健康調査」を実施している。「甲状腺検査」は,震災時点でおおむね0~18歳までの県内居住者と県外避難者を含む約38万5千名を対象とし,一次検査では超音波検査を,二次検査では詳細な超音波検査,血液検査,尿検査,必要に応じて穿刺吸引細胞診を実施する。
福島県立医科大学附属病院では二次検査対象者とその家族に向け,精神保健福祉士,社会福祉士,医療ソーシャルワーカー,臨床心理士,看護師などからなるサポートチームが,検査や放射線の影響に関する不安,甲状腺癌の知識不足,検査対象者の母親に特有の罪責感といった問題に対し,カウンセリングを提供している。
チームでは2015(平成27)年6月30日現在で,797名のサポートをした。相談の内容は,検査・診療,所見,家族,ライフステージ,震災や避難生活,社会環境などがあった。チームが介入した結果,対象者と家族からより広範な情報収集が可能になり,コミュニケーションがより効果的になった。また,対象者と家族が不安を表現し,検査への理解を深める場作りを行った。

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放射線と甲状腺とこころ(2) ― 甲状腺癌に直面した小児・若年成人者と家族への支援 ―

古橋 知子*1,福島 俊彦*2,鈴木 眞一*3
*1:福島県立医科大学看護学部家族看護学部門/附属病院看護部小児看護専門看護師,*2:福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座准教授,*3:福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座主任教授

Key words
◉ 小児・若年成人者甲状腺癌(pediatric and young adult patients with thyroid cancer),
◉ 甲状腺超音波検査(thyroid ultrasonography)

要旨
東日本大震災後の原発事故を受け,福島県では県民健康調査の一つとして甲状腺検査が行われた。精密検査である二次検査の後,当院にて良性腫瘍として経過観察や,悪性ないし悪性疑いとして手術を受ける場合がある。2014年4月~2016年1月までの間,甲状腺・内分泌外科外来を受診される小児・若年成人者とその家族76例に対して継続的なかかわりをもち,支援体制づくりを行ってきた。
外来受診ごとに診察前後のかかわり(前準備とフォロー)と診察への同席を行い,さらに手術を受ける場合,入院期間中に病室を数回訪問している。病気を受け止めることの困難さ,個々に抱かれる多様な不安や心配を十分に理解しながら,ニーズを的確に判断し対応することが求められている。子どもが大切に思っている事柄を引き出し,それを尊重しながら,子どもおよび保護者が病気や病状を十分に理解し,治療や進路について自律的に意思決定できるよう,支援にあたっている。

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[特集2]甲状腺スクリーニングとその問題点

がん検診における不利益

祖父江 友孝
大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座環境医学教室教授

Key words
◉ がん検診(cancer screening),◉ 利益不利益バランス(balance of benets and harms),◉ 過剰診断(over diagnosis)

要旨
癌の早期発見を目的とした検査を,無症状の一般住民に行う場合,検査がもたらす利益と不利益を実証的に評価し,利益が不利益を上回ると判断できる場合に限り,がん検診として推奨する,という考え方が定着してきている。
検査がもたらす利益とは,主として当該癌死亡減少を意味するが,不利益は,偽陽性,過剰診断,合併症など複数の異なった要素から構成され,定量的に評価することが難しい。さらに,不利益の内容と大きさは,年齢によって異なる。高齢者に対するがん検診は,受診者本人が受ける不利益が利益に比べて大きいことが多く,過剰診断や合併症の影響が大きい。
甲状腺癌は,他の癌に比べて成長速度が遅く,過剰診断となる確率が高い。放射線の健康影響が懸念される集団に対して,甲状腺癌の早期発見を目的として,超音波検査を実施する場合にも,検査がもたらす利益と不利益のバランスを吟味したうえで,慎重に実施することが望まれる。

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世界的な甲状腺癌の増加と韓国における早期検診による過剰診断について

Hyeong Sik Ahn, MD, PhD*1,Hyun Jung Kim, MPH,PhD*2
*1:Professor, Department of Preventive Medicine, College of Medicine, Korea University
*2:Department of Preventive Medicine, College of Medicine, Korea University

Key words
◉ 韓国(Korea),◉ 超音波(ultrasonography),◉ 過剰診断(overdiagnosis)

要旨
韓国における甲状腺癌の手術例の急激な増加は,死亡率の減少を伴っていないことから,過剰診断の明確な例となっている。その原因は甲状腺超音波検査・穿刺吸引細胞診などの医療技術が急速に普及した点,主に微小乳頭癌の発生数が増加している点から,甲状腺癌の診断数の増加によると推測される。甲状腺癌の診断数の増加の原因を分析する場合,検診数の増加がどのような影響を及ぼしたかを把握することが最も重要である。甲状腺癌の症例数の増加は韓国だけにとどまらず,世界中の多くの国で観察されているが,概してこれらの国における甲状腺癌の死亡率の増加は報告されていない。死亡率の低下を伴わない甲状腺癌の手術例の増加を防止するためには,甲状腺癌の早期検診の有用性を厳密に評価していかなければならない。

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甲状腺超音波診断の有用性と問題点

貴田岡 正史
イムス三芳総合病院内分泌・代謝センターセンター長

Key words
◉ 甲状腺超音波検査(thyroid ultrasonography),◉ 精査基準(criteria for detailed examination),
◉ 適応(indication),◉ 診断基準(diagnostic criteria)

要旨
甲状腺超音波検査は日常臨床に必要不可欠の存在であるが,その質は装置のみならず術者のスキルに負うところも多い。装置の性能と検査の手順はその意味で疎かにはできない。 また,検査の適応と流れを正しく認識して実施することが重要である。大きさの評価と診断基準に沿った質的評価を的確に行うことに留意する。
他の画像診断で偶発的に発見される甲状腺病変の頻度が非常に高くなっており,受検者の精神的,時間的,経済的な負担は臨床的に大きい問題となっている。嚢胞性病変と充実性病変に分けて精査基準を設けているので,不必要な検査が受検者,医療者双方の負担にならない十分な配慮のもとに検査を進めることが必要である。
乳頭癌については超音波検査がきわめて有用であるが,濾胞性腫瘍の鑑別診断には苦慮することが多い。この場合はドプラ法による血流評価と組織弾性評価(エラストグラフィ)が診断の補助として有用である。

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福島県「県民健康調査甲状腺検査」結果概要

鈴木 悟
福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座教授

Key words
◉ 甲状腺健診(thyroid screening),◉ 小児癌(pediatric cancer),◉ スクリーニング(screening),
◉ 超音波検査(ultrasonography)

要旨
福島県では原発事故後,子供たちの健康を長期に見守るために,甲状腺超音波検査を震災時年齢0~18歳の子供達を対象に実施している。今回,1回目の検査(先行検査)が終了した。引き続き本格検査として,2~5年に一度の検査を実施している。先行検査の受診者数は300,476名(81.7%)であった。2015年6月現在,二次検査を受診された2,108名中,537名の方に細胞診を施行した。113名の方が悪性,ないしは悪性疑いの判定になった。男性38名,女性75名であった。震災時年齢は6~18歳。悪性,悪性疑いの診断率は,全体では,10万人対37.3人であった。成人での甲状腺検診は,甲状腺癌が比較的緩除に進行するため,生命予後の改善に寄与しないといわれている。しかし,小児の長期的な予後は未知であり,注意深い判断が必要である。2巡目以降の検査を行うことにより,子供達の甲状腺を見守りよりよい方法を検討していく。

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[症例報告]

DICER1遺伝子に胚細胞性変異を認めた多結節性甲状腺腫の一家系

深田 修司*1,菱沼 昭*2,小飼 貴彦*3,廣川 満良*4,西原 永潤*5,舛岡 裕雄*6,宮内 昭*7
*1:隈病院内科顧問,*2:獨協医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座教授,*3:獨協医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座准教授,*4:隈病院病理診断科科長,*5:隈病院内科副科長,*6:隈病院外科医長,*7:隈病院院長

Key words
◉ 多結節性甲状腺腫(multinodular goiter),◉ 家族性(familial),◉ DICER1 遺伝子(DICER1 gene),
◉ DICER1症候群(DICER1 syndrome),◉ micro RNA

要旨
腺腫様甲状腺腫,すなわち多結節性甲状腺腫(MNG)はありふれた疾患で,炎症や甲状腺機能異常を伴うことなく,甲状腺内に結節が生じ甲状腺腫大を呈する疾患である。その原因は多岐にわたり,不明な点が多い。最近,Rio Frioらは,5家系の家族性MNGを対象にDICER1 遺伝子の解析を行った。その結果,全家系において,胚細胞性DICER1 遺伝子のヘテロ接合性の変異が認められ,その変異とMNG発症の関連の可能性が示唆された。DICER1蛋白は,microRNAのプロセッシングに重要な酵素であり,その異常により,mRNAの翻訳過程に異常を来し,細胞の増大,増殖,分化に影響を与える可能性がある。
その後,少なくとも9家系の家族性MNGにDICER1 遺伝子の変異が同定された。今回,われわれは家族性MNGの一家系において胚細胞性DICER1 遺伝子の解析を行い,わが国で初めて,その変異を確認し得たので報告する。

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心室細動を契機に診断された甲状腺クリーゼの一例

中野 美由紀*1,西村 久美子*1,堀谷 啓太*1,辻本 悟史*2,城 聡一*2,岩崎 真佳*3,野村 惠巳子*2,浮田 千津子*3,塩島 一朗*4,豊田 長興*5
*1:関西医科大学内科学第二講座,*2:関西医科大学内科学第二講座助教,*3:関西医科大学内科学第二講座診療講師,*4:関西医科大学内科学第二講座教授,*5:関西医科大学内科学第二講座診療教授

Key words
◉ 甲状腺クリーゼ(thyroid crisis),◉ 心室細動(ventricular brillation),◉ Basedow病(Gravesʼ disease)

要旨
症例は44歳女性。33歳時にBasedow病と診断された。2年間通院後,自己中断となる。2014年6月,仕事中に突然意識消失し転倒した。救急搬送時,モニター心電図上心室細動を認めた。電気的除細動後,心拍は再開した。入院時,心房細動(心拍数170回/分)を認めた。FT4 4.25ng/dL,TSH 0.013µIU/mL以下と甲状腺中毒症を認めた。甲状腺中毒症,中枢神経症状,うっ血性心不全を認めたことから,甲状腺クリーゼと診断した。β遮断薬,チアマゾール(MMI),無機ヨウ素,ヒドロコルチゾンの投与および低体温療法を開始した。第2病日に意識レベルが改善,第3病日に意識清明となり,第23病日に退院となった。甲状腺中毒症に心室細動を合併することはまれである。甲状腺中毒症による交感神経の緊張が心室細動の原因と考えられる。甲状腺中毒症は,心室細動を惹起する原因の一つとして念頭に置くべきと考えられる。

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伝染性紅斑により橋本病を発症したと考えられる17 症例

宮下 和也
医療法人社団和恵会宮下クリニック甲状腺センター理事長

Key words
◉ 橋本病(Hashimotoʼs thyroiditis),◉ 伝染性紅斑(erythema infectiosum),◉ ヒトパルボウイルスB19:B19(human parvovirus B19:B19)

要旨
伝染性紅斑の原因であるヒトパルボウイルスB19(B19)は,種々の自己免疫疾患に関与することが知られている。近年,甲状腺癌や橋本病組織中でB19検出の報告があるが,先後関係は不明である。今回,伝染性紅斑罹患後に橋本病を発症した17症例を経験した。症例1は16歳女性。甲状腺腫を指摘され初診,検査では異常なし。2ヵ月後,38℃台の発熱,頬・四肢の紅斑,多発関節痛のため受診。症状とB19IgM抗体陽性から伝染性紅斑と診断。2週後,甲状腺腫と振戦が出現。甲状腺超音波検査で全体に不均質で血流低下。炎症反応正常で,甲状腺中毒症を認め,TRAb陰性,抗Tg抗体・抗TPO抗体陽性から,無痛性甲状腺炎と診断。10週後,甲状腺機能低下症に陥った。症例1以外に,初診時は甲状腺に異常を認めず,伝染性紅斑罹患後に無痛性甲状腺炎または橋本病による甲状腺機能低下症を発症した症例を16例経験した。B19感染が橋本病発症に関与することが示唆された。

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シリーズ[ちょっとした疑問]

第15回国際甲状腺学会(15th ITC)参加報告・聴講記

長瀧 重信
長崎大学名誉教授/伊藤病院学術顧問/放射線影響協会理事長

Key words
◉ 研究発表(research presentation),◉ 国際学会(international association),◉ 甲状腺専門医(thyroidologist),
◉ 日本のランキング(Japan in rankings),◉ 臨床と研究(clinical and research)

要旨
筆者は1965年の第5回から2015年の第15回まで50年間,すべての国際甲状腺学会に出席し,2000年の第12回では会長も務めさせていただいた。この経験を背景に,国際学会を通じて日本甲状腺学会を世界からみた大学ランキング的に観察した。プログラム委員からみたランキングである招待講演のPlenary Lectureでは日本は大きく貢献できたが,その他の招待講演での日本人の関与は急速に減少していた。一般演題の提出数は,アジア全体としては急速に増加し, 国別でも上位5位のなかに日中韓の3国が入っているほど韓国,中国の躍進が著しい。韓国は日本の倍以上,中国は日本と同じ程度の演題数ではあるが,それぞれの国の学会会員数と発表者数の比率で比較すると,韓国24%,中国11%,日本2%となり,日本が世界のなかでも極端に低い。日本では学会で発表しない会員が多いということで,今後の甲状腺専門医のあり方などを真剣に考えることを提言したい。

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小児Basedow病患者にPTUは禁忌か?

佐藤 浩一
サンライズこどもクリニック院長

Key words
◉ 小児(children),◉ Basedow病(Gravesʼ disease),◉ プロピルチオウラシル(PTU),
◉ チアマゾール(MMI),◉ 肝不全(liver failure)

要旨
『小児期発症バセドウ病薬物治療のガイドライン2008』では,プロピルチオウラシル(PTU)はチアマゾール(MMI)で副作用が出た場合の選択薬として記載されているが,米国では「小児の重篤な肝不全発症頻度が多い」との2009年の報告により,小児のBasedow病治療の選択枝としてガイドラインには記載されなくなった。このような状況下,日本甲状腺学会は小児でのPTU使用をできるだけ避けるように注意喚起を行った。
一方,わが国でのPTU使用中の肝不全発症頻度増加の報告はなく,長期投与での効果もMMIと有意差はなく,ANCA関連血管炎も原発性のものより予後は良好と報告されている。これらを踏まえて,現在改訂中のガイドラインでは「禁忌」ではなく「慎重投与」と記載される予定である。当然ではあるが,PTUを使用する場合は重篤な肝機能障害を含む十分な説明と同意が必須となる。

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