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学会雑誌抄録

『日本甲状腺学会雑誌』 2016年10月号(Vol.7 No.2)


[特集1]Basedow病眼症up-to-date

放射性ヨウ素内用療法(RI治療) ― Basedow病眼症(GO)患者に対するRI治療の是非 ―

甲状腺眼症に対するステロイド・パルス療法と肝障害

Basedow病眼症診療におけるMRIの有用性

[特集2]甲状腺未分化癌:マネジメントの現在

甲状腺未分化癌の外科治療

甲状腺未分化癌の薬物療法

甲状腺未分化癌における緩和医療

[原著]

甲状腺疾患に対する放射性ヨウ素内用療法施行前のヨウ素制限についての研究 第1報 放射性ヨウ素内用療法の実施状況と施行前のヨウ素制限についての全国調査

A nation-wide survey on the practice of radioiodine therapy and iodine restriction before the procedure in Japan

[症例報告]

潰瘍性大腸炎の治療中に亜急性甲状腺炎を3回繰り返し発症した一例

妊娠を契機にTSH受容体抗体の著明な上昇を認め,胎児・新生児Basedow病を発症した131I 内用療法後Basedow病合併妊娠の一例

[特集1]Basedow病眼症up-to-date

放射性ヨウ素内用療法(RI治療) ― Basedow病眼症(GO)患者に対するRI治療の是非 ―

渡邊 奈津子
伊藤病院内科医長

Key words
◉ 放射性ヨウ素(radioiodine),◉ Basedow病(Gravesʼ Disease),◉ 活動性(activity),
◉ 重症度(severity),◉ ステロイド(steroid)

要旨
RI治療により甲状腺機能の安定が得られる利点は大きい。しかし,治療後にGOが悪化しうることから,リスク・ベネフィットを考慮し,十分な説明と同意のうえ選択する。RI治療にあたり,①活動性GOを避けること,②活動性GOでやむを得ず選択する場合は予防的ステロイド薬(PCS)投与を行うこと,③リスク因子を管理すること(RI治療後甲状腺機能低下症の回避,禁煙)がよいと考える。われわれは非活動性GO・GOなしのBasedow病を対象に,RI治療後のGO悪化を前向きに検討した。GO悪化を9.8%に認めたが,眼科治療例は2.3%のみで,多くの症例でGOの悪化なくRI治療が可能だった。活動性GO,特に中等症以上ではGO治療を優先するが,活動性を有する軽症から中等症のGOにおいても,PCSにより悪化を25%から4%まで抑制できたとのメタ解析が報告されており,PCS投与,リスク因子管理を行いながらRI治療を選択しうると考えられる。

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甲状腺眼症に対するステロイド・パルス療法と肝障害

江口 洋幸*1,中村 由育*1,谷 淳一*2,廣松 雄治*3
*1:久留米大学医療センター内分泌代謝内科助教,*2:久留米大学病院内分泌代謝内科講師,
*3:久留米大学医療センター病院長

Key words
◉ 甲状腺眼症(thyroid-associated ophthalmopathy),◉ Basedow病眼症(Gravesʼ ophthalmopathy),
◉ ステロイド・パルス療法(steroid pulse therapy),◉ 肝障害(hepatopathy)

要旨
メチルプレドニゾロン(MP)・パルス療法は,中等症~重症の活動性の甲状腺眼症に対するファーストラインの治療法である。パルス療法中や治療後に重篤な肝障害を来すことがある。そのmorbidityは1.3%,mortalityは0.09%と報告されている。①肝炎ウイルスの再活性化(de novo肝炎),②自己免疫性肝炎の増悪,③MPの直接的な肝毒性,④脂肪肝の増悪,⑤併用薬剤の相互作用などの機序が想定されている。性別,年齢,MP投与量,ウイルス肝炎の既往などがリスク因子である。パルス療法前にこれらのリスク因子の評価を行うとともに,パルス療法後も注意深い観察が必要である。欧米では,MP 0.5g週1回(weekly法),総投与量は8g未満の投与が推奨されている。視神経症などの最重症例では,MP 1gのdaily法またはalternate法での開始が推奨されている。わが国では,入院のうえ,MP 1gまたは0.5gのdaily法を行っている施設が多い。投与方法については前向き研究が進行中である。

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Basedow病眼症診療におけるMRIの有用性

神前 あい
オリンピア眼科病院

Key words
◉ 甲状腺眼症(thyroid-associated opthalmopathy), ◉ MRI,◉ T2緩和時間(T2 relaxation time),
◉ T2-SIR,◉ 脂肪抑制T2強調画像(fat suppression T2-weighted image)

要旨
甲状腺眼症の診断治療において最も重要なのは病変部位を確認し,活動性を評価することである。この2点を一度に精査できる検査はMRIである。MRIのT1強調画像にて外眼筋肥大や脂肪織の腫大の有無,程度を判定する。他疾患との鑑別も可能である。T2緩和時間やT2-SIRは球後炎症の指標として数値化することが可能であり,脂肪抑制T2強調画像にて,活動性の所見を確認できる。MRIを撮影し計測することによって,左右の各外眼筋と上眼瞼挙筋の肥大と炎症を評価できるため,治療方針が決定できる。治療後の効果判定にも同様にMRI検査を施行し,T2緩和時間やT2-SIRと脂肪抑制T2強調画像で消炎を確認できる。つまり,MRIは甲状腺眼症の臨床には最も好ましい画像診断法であるといえるであろう。

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[特集2]甲状腺未分化癌:マネジメントの現在

甲状腺未分化癌の外科治療

杉谷 巌
日本医科大学大学院医学研究科内分泌外科学教授

Key words
◉ 甲状腺未分化癌(anaplastic thyroid carcinoma),◉ 根治切除(curative resection),◉ PI(prognostic index),
◉ 拡大根治切除(super-radical surgery),◉ 甲状腺未分化癌研究コンソーシアム(Anaplastic Thyroid Carcinoma Research Consortium of Japan)

要旨
予後不良な甲状腺未分化癌において,根治切除は重要な生命予後改善因子である。しかし,腫瘍が甲状腺内に限局する症例は少なく,多くは隣接臓器への浸潤を有する症例で,拡大根治切除の適応には十分な根拠がなかった。2009年,わが国における多施設共同研究組織である甲状腺未分化癌研究コンソーシアムが設立された。多数の症例データ集積により,根治切除の重要性や腫瘍の広がりと生物学的悪性度による予後予測に基づく治療方針の決定法などが示された。拡大根治切除については,適切な症例選択により予後改善が見込めるものの,QOLとのバランスへの配慮が重要であった。近年では化学療法や放射線療法,放射線化学療法の進歩もあって,集学的治療により手術可能な症例が増加したり,予後を改善したりする効果が期待されている。根治切除不能な未分化癌に対する分子標的薬の登場もあり,外科治療の位置付けが変化してきている。

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甲状腺未分化癌の薬物療法

小野田 尚佳*1,野田 諭*2,德本 真央*3,田内 幸枝*3,柏木 伸一郎*2,高島 勉*2,平川 弘聖*4,大平 雅一*5
*1:大阪市立大学大学院医学研究科腫瘍外科学准教授,*2:大阪市立大学大学院医学研究科腫瘍外科学講師,*3:大阪市立大学大学院医学研究科腫瘍外科学,*4:大阪市立大学医学部附属病院病院長,*5:大阪市立大学大学院医学研究科腫瘍外科学教授

Key words
◉ 甲状腺未分化癌(anaplastic thyroid carcinoma),◉ 薬物療法(pharmacotherapy),◉ 化学療法(chemotherapy),◉ 分子標的治療(molecular targeted therapy),◉ チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitors)

要旨
大多数の甲状腺未分化癌症例には,薬物療法を中心とした全身療法が必要になる。希少性だけでなく,罹患者に高齢患者が多いことや治療抵抗性を示す腫瘍の性質,全身状態を急激に悪化させる進行の速さなどが,標準化された治療経験の集積を妨げ,治療成績の改善には至ってこなかった。近年になりいくつかの注目すべき化学療法,分子標的治療の臨床試験結果が発表され,状況は変わりつつある。タキサン系の抗癌薬による化学療法は手術と組み合わせた治療により,効果を上げることが明らかになってきた。また,切除不能の未分化癌には,分子標的薬レンバチニブを中心とする治療法への拡がりがみられた。さらには,RAS/RAF/MEK経路を標的とした分子標的薬や,免疫チェックポイント阻害薬による新たな治療戦略が期待されている。今後の治療成績改善のためには,多施設連携を通じて行う質の高い臨床試験による情報の集積が不可欠である。

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甲状腺未分化癌における緩和医療

杉野 公則
伊藤病院 副院長

Key words
◉ 甲状腺未分化癌(anaplastic thyroid carcinoma),◉ 緩和ケア(palliative care),◉ 終末期(terminal phase)

要旨
甲状腺未分化癌の予後改善に対して多くの努力がなされてきた。しかし,残念ながら,いまだ惨憺たる結果である。進行がきわめて早い未分化癌に対しては,診断がついた時点で積極的な治療方針を策定すると同時に,緩和ケアについても考えていく必要がある。日々刻々と変化する本疾患に対して,病状,治療法の説明にとどまることなく,トレーニングや知識に基づいた緩和ケアや,継続的コミュニケーションを提供する努力と準備が必要である。

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[原著]

甲状腺疾患に対する放射性ヨウ素内用療法施行前のヨウ素制限についての研究
  第1報 放射性ヨウ素内用療法の実施状況と施行前のヨウ素制限についての全国調査

御前 隆*1,布施 養善*2, 3,浦川 由美子*2, 4,高村 昇*2, 5,塚田 信*2, 6,野口 仁志*2, 7,吉村 弘*2, 8,伊藤 充*2, 9,臼井 由行*2, 10,北谷 直美*2, 11,絹谷 清剛*2, 12,田村 美香*2, 13,中駄 邦博*2, 14,野口 靖志*2, 15,山口 真由*2, 16,横山 邦彦*2, 17,渡邊 奈津子*2, 8,紫芝 良昌*2, 18,入江 實*2, 19

*1:日本甲状腺学会臨床重要課題「日本人のヨウ素栄養状態の全国実態調査と甲状腺疾患との関係」委員会「核医学診療における甲状腺疾患とヨウ素」ワーキンググループ委員長/天理よろづ相談所病院放射線部(RI部門),*2:日本甲状腺学会臨床重要課題「日本人のヨウ素栄養状態の全国実態調査と甲状腺疾患との関係」委員会「核医学診療における甲状腺疾患とヨウ素」ワーキンググループ,*3:日本甲状腺学会臨床重要課題「日本人のヨウ素栄養状態の全国実態調査と甲状腺疾患との関係」委員長/帝京大学医学部(リサーチフェロー),*4:元 鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科,*5:長崎大学原爆後障害医療研究所国際保健医療福祉学研究分野,*6:女子栄養大学栄養科学研究所,*7:野口病院内科,*8:伊藤病院内科,*9:隈病院内科,*10:岡山医療センター乳腺甲状腺外科,*11:関西電力病院疾患栄養治療センター,*12:金沢大学医薬保健研究域医学系核医学,*13:北光記念病院栄養科,*14:北光記念病院放射線科,*15:野口病院放射線科,*16:鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科,*17:松任石川中央病院PET センター,*18:ゆうてんじ内科,*19:東邦大学(名誉教授)

Key words
131I ,◉ 内用療法,◉ ヨウ素制限,◉ 甲状腺機能亢進症,◉ 甲状腺癌

要旨
放射性ヨウ素内用療法前のヨウ素制限についてアンケートを行った。予備調査により,施設間で年間治療件数に大きな差があることがわかった。詳細調査に同意した105施設中85施設から回答を得た。主たる説明者は医師,栄養士,看護師,技師,事務職の順に多かった。78施設ではヨウ素制限についての説明書を使用しており,ヨウ素を含む食品や医薬品の禁止はほとんどすべての施設の文書に記載されているが,摂取可能な食品,推奨献立,問い合わせ先などの記載は半数程度であった。ヨウ素制限の期間には施設間に差異があり,甲状腺機能亢進症では7日間または7~14日間,残存甲状腺破壊療法および甲状腺癌転移治療では14日間が比較的多かった。ヨウ素制限の目標値は約17%の施設で設定されており,100µg/日以下が比較的多かったものの,評価単位やその数値はさまざまであった。しかし,3/4の施設でヨウ素制限の評価が行われていなかった。調査結果を踏まえて,今後,標準的なヨウ素制限プロトコールを作成し,その有効性を検証する。

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A nation-wide survey on the practice of radioiodine therapy and iodine restriction before the procedure in Japan

Takashi Misaki*1, Yozen Fuse*2, 3, Yumiko Urakawa*2, 4, Noboru Takamura*2, 5, Nobu Tsukada*2, 6, Hitoshi Noguchi*2, 7, Hiroshi Yoshimura*2, 8, Mitsuru Ito*2, 9, Yoshiyuki Usui*2, 10, Naomi Kitatani*2, 11, Seigo Kinuya*2, 12, Mika Tamura*2, 13, Kunihiro Nakada*2, 14, Yasushi Noguchi*2, 15, Mayu Yamaguchi*2, 16, Kunihiko Yokoyama*2, 17, Natsuko Watanabe*2, 8, Yoshimasa Shishiba*2, 18, Minoru Irie*2, 19

*1:Chair, the Working group for“Thyroid diseases and iodine intake in nuclear medicine practice”within the Committee for“Relationship between iodine intake and thyroid diseases in Japan”of the Japan Thyroid Association, Tenri Hospital Radioisotope Center, *2:Working group for“Thyroid diseases and iodine intake in nuclear medicine practice”within the Committee for“Relationship between iodine intake and thyroid diseases in Japan”of the Japan Thyroid Association, *3:Chair of the Committee/Research Fellow, Faculty of Medidine, Teikyo University, *4:Formerly Faculty of Family and Consumer Science, Kamakura Women’s University, *5:Nagasaki University Atomic Bomb Disease Institute, *6:The Institute of Nutrition Sciences, Kagawa Education Institute of Nutrition, *7:Department of Internal Medicine, Noguchi Hospital, *8:Department of Internal Medicine, Ito Hospital, *9:Department of Internal Medicine, Kuma Hospital, *10:Department of Breast and Thyroid Surgery, National Hospital Organization Okayama Medical Center, *11:Center for Metabolism and Clinical Nutrition, Kansai Electric Power Hospital, *12:Department of Nuclear Medicine / Biotracer Medicine, Kanazawa University Graduate School of Medical Sciences, *13:Department of Nutrition, Hokko Memorial Hospital, *14:Department of Radiology, Hokko Memorial Hospital, *15:Department of Radiology, Noguchi Hospital, *16:Faculty of Family and Consumer Science, Kamakura Women’s University, *17:PET Imaging Center, Public Central Hospital of Matto Ishikawa, *18:Yutenji Medical Clinic, *19:Emeritus Professor, Toho University

Key words
I-131, Radioiodine therapy, Iodine restriction, Hyperthyroidism, Thyroid cancer

Summary
Here we report the results of a nation-wide survey on iodine restriction before radioiodine therapy in Japan. Eighty-five out of the targeted 105 institution kindly replied to our detailed inquiry. The methods of restriction are explained to the patients mainly by physicians, followed by dieticians, nurses, technologists and clerical staff. Most used a written form to explain, with itemization of foods (especially sea vegetables) and drugs to avoid. About half of those forms also contain a list of low-iodine food materials, suggested menus and information for contact. The duration of restriction varied widely among hospitals, with 7 to 14 or 7 days for hyperthyroidism and 14 days for thyroid cancer as the most frequent values, respectively. Nineteen institutes actually measured urinary iodine to validate the restriction. Target values also differed from hospital to hospital, with 100 μg/day the most frequently cited. With this knowledge of current practice throughout the country, we are planning to compile and evaluate a common and recommendable protocol.

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[症例報告]

潰瘍性大腸炎の治療中に亜急性甲状腺炎を3回繰り返し発症した一例

伊藤 祐子*1,鈴木 悟*2,片方 直人*3,野水 整*4,志村 浩己*5
*1:福島県立医科大学医学部臨床検査医学講座,*2:福島県立医科大学附属病院甲状腺・内分泌内科部長,*3:公益財団法人星総合病院外科統括部長,*4:公益財団法人星総合病院病院長,*5:福島県立医科大学医学部臨床検査医学講座教授

Key words
◉ 亜急性甲状腺炎(subacute thyroiditis),◉ 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis),◉ ヒト白血球抗原(human leucocyte antigen),◉ サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)

要旨
症例は53歳の女性。36歳より潰瘍性大腸炎の治療を継続している。49歳時と51歳時に亜急性甲状腺炎の既往があり,2015年9月に右頸部痛と倦怠感を訴え来院した。有痛性甲状腺腫,CRP上昇,甲状腺中毒症,超音波で疼痛部に一致した低エコー域の所見を認め,亜急性甲状腺炎と診断した。甲状腺炎はプレドニゾロン20mg/日にて順調に回復した。有痛性炎症が再発しやすい橋本病急性増悪は否定的であり,本例は一般的に再発がまれとされる亜急性甲状腺炎を比較的短期間に繰り返したと考えられた。亜急性甲状腺炎の発症に関しては,HLA-B35,HLA-B67の遺伝的素因が指摘されており,また再発はHLA-A26との関連性が報告されているが,本例ではいずれも認めない。一方,本例は潰瘍性大腸炎を合併していることから,サイトメガロウイルス潜在感染の亜急性甲状腺炎発症への関与は今後の検討課題と考えられる。

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妊娠を契機にTSH受容体抗体の著明な上昇を認め,胎児・新生児Basedow病を発症した131I 内用療法後Basedow病合併妊娠の一例

佐藤 志織*1,荒田 尚子*2,梅原 永能*3,三戸 麻子*1,川﨑 麻紀*1,堀川 玲子*4,内木 康博*5,伊藤 裕司*6,左合 治彦*7,村島 温子*8

*1:国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科,*2:国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科医長,*3:国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター産科,*4:国立成育医療研究センター生体防御系内科部内分泌・代謝科医長,*5:国立成育医療研究センター生体防御系内科部内分泌・代謝科,*6:国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター副センター長,*7:国立成育医療研究センター周産期・母性診療センターセンター長,*8:国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター主任副センター長

Key words
◉ Basedow病(Gravesʼdisease),◉ TSH受容体抗体(TSH receptor antibody),◉ 妊娠(pregnancy),◉ 胎児Basedow病(fetal Gravesʼdisease),◉ 新生児Basedow病(neonatal Gravesʼdisease)

要旨
【症例】35歳女性。15歳Basedow病を発症し,27歳131I 内用療法を施行。以降はチアマゾール(MMI)とレボチロキシンナトリウム(LT4)の服用で甲状腺機能は良好に経過しており,妊娠4週で両剤を中止。妊娠19週より母体甲状腺機能悪化のためヨウ化カリウム(KI)を開始。妊娠経過とともにTSH受容体抗体(TRAb)が著名に上昇し(妊娠7週3.2,25週39.2IU/L),妊娠28週頃より胎児頻脈,胎児甲状腺腫大が疑われKIを増量。妊娠32週よりMMIを追加し,以降母体甲状腺機能ほぼ良好であり,胎児発育遅延,胎児頻拍,骨成熟亢進などの胎児甲状腺機能亢進所見はみられず,36週3日に経腟分娩。妊娠36週のTRAbは237IU/Lまで上昇。児は出生体重2,354g。出生直後より著しい頻脈,甲状腺機能亢進症を認め新生児 Basedow 病と診断し,日齢0より MMI と KI による治療が行われ,甲状腺機能は正常化し約1ヵ月後に退院。【まとめ】妊娠を機にTRAbの著明な上昇を認めた希少な症例を経験した。RI 後 Basedow病でTRAb値が5IU/L以下であっても,胎児 Basedow病のモニタリングとして中期以降にTRAb値のフォローアップは必要と考えられた。

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