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学会雑誌抄録

『日本甲状腺学会雑誌』 2017年4月号(Vol.8 No.1)


[特集1]POEM Study

Pregnancy Outcomes of Exposure to Methimazole(POEM)Studyからわかったこと

妊娠・授乳中の薬物療法の考え方の基本

チアマゾール奇形症候群に対する外科的治療について

「甲状腺機能亢進症の妊娠中と産後の管理に関する米国甲状腺学会ガイドライン2017」について

[特集2]小児領域の甲状腺疾患の Update

「先天性甲状腺機能低下症マス・スクリーニングガイドライン(2014年改訂版)」の解説

「小児期発症バセドウ病診療のガイドライン2016」の解説

新たな先天性中枢性甲状腺機能低下症の原因 ― Immunoglobulin superfamily member 1遺伝子異常症 ―

甲状腺形成異常の分子遺伝学:JAG1 変異の発見

小児遺伝性髄様癌のRET 遺伝学的検査と外科治療

投稿[症例報告]

橋本病経過中にクリーピング現象を伴う有痛性甲状腺炎を発症した1例

Creeping pain during painful thyroiditis in a patient with Hashimotoʼs disease:A case report

[症例報告]

術後に多発遠隔転移を生じた“腺腫様甲状腺腫”の一例

甲状腺ホルモン製剤にて重症肝障害を来した橋本病の一例

[特集1]POEM Study

Pregnancy Outcomes of Exposure to Methimazole(POEM)Studyからわかったこと

荒田 尚子
国立研究開発法人国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科医長

Key words
◉ 妊娠(pregnancy),◉ チアマゾール(methimazole),◉ 奇形症候群(embryopathy),◉ Basedow病(Gravesʼ disease)

要旨
抗甲状腺薬には,チアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシルの2種類がある。MMIのほうが効果,副作用,アドヒアランスの面で優れていることから,妊娠を考えなければ第一選択として使用される。しかし,妊娠初期のMMIの胎児への曝露は,頭皮欠損,食道閉鎖・気管食道瘻,後鼻孔閉鎖,臍腸管遺残,臍帯ヘルニア,顔貌異常,精神発達遅滞などの組み合わせを示す奇形症候群(MMI奇形症候群)と関連していることが,この10年で明らかにされてきた。2008~2015年にわが国で行われた妊娠と薬情報センターと全国の甲状腺専門医療施設が協力して行った「妊娠初期に投与されたチアマゾールの妊娠結果に与える影響に関する前向き研究(Pregnancy Outcomes of Exposure to Methimazole Study:POEM Study)」が終盤を迎えている。現在,主要評価項目であるMMI奇形症候群といわれている奇形の頻度の解析はほぼ終了しており,最終報告は論文報告をもって行うが,その概要について可能な範囲で本雑誌にて解説する。

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妊娠・授乳中の薬物療法の考え方の基本

村島 温子
国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター主任副センター長/妊娠と薬情報センターセンター長

Key words
◉ 薬物療法(drug therapy),◉ 妊娠(pregnancy),◉ 授乳(lactation),◉ 催奇形性(teratogenicity),◉ 胎児毒性(fetal toxicity)

要旨
流産や児の先天異常の自然発生率はそれぞれ15%,3%前後といわれている。たまたま妊娠中に薬剤を使用していた場合は,その薬剤が原因と思われがちである。母親や処方医師が後悔をずっと引きずらないためにも妊娠中は安易な薬剤使用は避けるべきであるが,投与せざるを得ない場合には安全性が高いと思われるもの,添付文書で有益性投与になっているものを優先する。添付文書は薬剤が治験により安全性,有効性を確認され,発売される際に作成されるものであるが,倫理的に妊婦を対象とすることは不可能なため,ほとんどの薬剤の添付文書の妊婦の項は動物実験結果のみを根拠として作成される。ヒトでの安全性は,その後行われる疫学研究結果を根拠とすべきである。母児ともに薬物療法の恩恵が享受できるようサポートするためには,随時新しい論文の批判的吟味により的確な情報を収集し,それを用いてカウンセリングすることが必要である。

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チアマゾール奇形症候群に対する外科的治療について

吉井 大貴*1,2,山本 裕俊*3,奥村 健児*4,匂坂 正孝*1,5,本田 正樹*1,5,猪股 裕紀洋*6
*1:熊本市立熊本市民病院小児外科,*2:熊本大学医学部附属病院小児外科・移植外科特任助教,*3:熊本市立熊本市民病院小児外科診療部長,*4:熊本市立熊本市民病院小児外科医長,*5:熊本大学医学部附属病院小児外科・移植外科,*6:熊本大学大学院生命科学研究部小児外科学・移植外科学分野教授

Key words
◉ チアマゾール(methimazole),◉ チアマゾール奇形症候群(methimazole embryopathy),◉ POEM Study

要旨
チアマゾール(MMI)奇形症候群と提唱され,MMI 曝露との関連が疑われる外科疾患のうち,わが国では臍腸管遺残,臍帯ヘルニア,食道閉鎖・気管食道瘻,頭皮欠損が報告されている。臍腸管遺残のうち,メッケル憩室には憩室穿孔や出血などの合併症により緊急手術を要する場合がある。臍帯ヘルニアでは感染や低体温を防ぎ,すみやかに脱出臓器を還納して腹壁を閉鎖する。MMI 関連の臍帯ヘルニアには一期的修復術が可能な臍帯内ヘルニアが多い。食道閉鎖症は気管食道瘻により呼吸障害を合併するため,すみやかに気管食道瘻の閉鎖術を行う。食道閉鎖症の予後はいまだ良好とはいえず,出生体重や合併奇形が予後にかかわる。頭皮欠損は上皮化完了まで保存的治療が行われる場合が多い。頭蓋骨や硬膜欠損症例には植皮術や頭蓋形成が行われることがある。妊娠初期にMMI曝露が起きた場合は,出生前の胎児精査および出生後の児の管理が可能な専門施設でのフォローアップが必要である。

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「甲状腺機能亢進症の妊娠中と産後の管理に関する米国甲状腺学会ガイドライン2017」について

日高 洋
大阪大学大学院医学系研究科病院臨床検査学講座准教授

Key words
◉ 妊娠一過性甲状腺中毒症(gestational transient thyrotoxicosis),◉ Basedow病(Gravesʼ disease),◉ MMI,◉ PTU,◉ TRAb

要旨
「甲状腺疾患の妊娠中と産後の診断と管理に関する米国甲状腺学会ガイドライン2017」1)のなかの,甲状腺機能亢進症に関する勧告について紹介する。2011年のガイドラインと異なる主な点を表1にまとめた。

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[特集2]小児領域の甲状腺疾患の Update

「先天性甲状腺機能低下症マス・スクリーニングガイドライン(2014年改訂版)」の解説

長崎 啓祐
新潟大学医歯学総合病院 小児科 講師

Key words
◉ 新生児マス・スクリーニング(neonatal mass screening:NMS),◉ 先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism:CH),◉ 濾紙血TSH(TSH in dried blood spot),◉ サブクリニカルCH(subclinical CH)

要旨
日本では1979年に,濾紙血TSH値を用いた先天性甲状腺機能低下症(CH)スクリーニングが開始され,その後1998年に「先天性甲状腺機能低下症マススクリーニングのガイドライン(1998年版)」が作成された。その後,さまざまな知見の蓄積や,欧米からCHに関するコンセンサスガイドラインが発表された。今回,これらの新しい知見を踏まえ,「先天性甲状腺機能低下症マス・スクリーニングガイドライン(2014年改訂版)」を作成した。ガイドラインの内容は10個の大項目と複数の小項目に分けて,すべての項目にグレードレベルとエビデンスレベルを記載した。さらに,推奨版およびQ&Aを作成した。ガイドラインは,小児内分泌を専門とする医師,小児科専門医,小児科を標榜する医師,医師全般,マス・スクリーニング事業にかかわる検査担当者,患者を対象として作成されている。今回は,各項目別に1998年版との相違点を中心に解説した。

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「小児期発症バセドウ病診療のガイドライン2016」の解説

南谷 幹史
帝京大学ちば総合医療センター小児科病院教授

Key words
◉ ガイドライン(guidelines),◉ プロピルチオウラシル(propylthiouracil:PTU),◉ チアマゾール(thiamazole:MMI),◉ 131I内用療法(131I therapy),◉ 甲状腺クリーゼ(thyroid storm)

要旨
「小児期発症バセドウ病薬物治療のガイドライン2008」が作成されてから5年以上経過し,小児Basedow病の治療に関して新知見が次々と報告されている。代表的な点は,①プロピルチオウラシル(propylthiouracil:PTU)誘発性重篤肝障害が多く発症し,「米国甲状腺学会(American Th yroid Association:ATA)/米国臨床内分泌学会(American Association of Clinical Endocrinologists:AACE)ガイドライン2011」でPTUの使用が限定されたこと,②『バセドウ病治療ガイドライン2011』で131I内用療法が「原則禁忌」から「慎重投与」に変更されたこと,③「ATA/AACEガイドライン2011」でチアマゾール(thiamazole:MMI)の初期治療量が低く設定されたこと,④小児でPTUがMMIに比し治療効果と副作用の点で劣ること,⑤MMI中等量治療量が安全で有効であること,⑥MMI長期継続療法が比較的高い寛解率を示すことである。
これらを踏まえ,ガイドラインの改訂作業を行った。関連文献を網羅し最終的に193論文を引用し,具体的な治療法を明記するように作成された。「ATAガイドライン2016」に言及しつつ,「小児期発症バセドウ病診療のガイドライン2016」の改訂点を解説する。

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新たな先天性中枢性甲状腺機能低下症の原因 ― Immunoglobulin superfamily member 1遺伝子異常症 ―

田島 敏広
自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科教授

Key words
◉ 先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism),◉ 中枢性先天性甲状腺機能低下症(central congenital hypothyroidism),◉ immunoglobulin superfamily member 1 (IGSF1),◉ 精巣腫大(testicular enlargement)

要旨
先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism:CH)の多くは原発性であるが,TSHの分泌不全に起因する中枢性CHが存在する。中枢性CHは主に単独のTSH分泌不全と,他の下垂体ホルモンの分泌不全を伴う複合型下垂体機能低下症とに分類される。その頻度は日本では15,000~20,000人に1人と推定される。中枢性CHのなかでわれわれはimmunoglobulin superfamily member 1の異常をわが国で初めて報告した。その主な病態はTSH分泌不全であるが,プロラクチン分泌不全を伴うことがある。また,精巣の腫大も特徴的な所見の1つである。IGSF1の生体内の役割についてはいまだ不明であり,今後IGSF1の視床下部-下垂体-甲状腺軸での生理的役割の検討が必要である。

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甲状腺形成異常の分子遺伝学:JAG1 変異の発見

鳴海 覚志
国立成育医療研究センター研究所 分子内分泌研究部 基礎内分泌研究室室長

Key words
◉ 先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism),◉ 甲状腺形成異常(thyroid dysgenesis),◉ Alagille症候群(Alagille syndrome),◉ JAG1

要旨
甲状腺の器官形成過程の異常を甲状腺形成異常(thyroid dysgenesis:TD)と呼ぶ。TDにおける単一遺伝子疾患の寄与は限定的と考えられており,甲状腺特異的転写因子群(PAX8,NKX2-1,FOXE1 )の変異はTD患者のごく一部にのみ検出される。2016年,長い沈黙を破ってTD関連遺伝子のリストにJAG1が加わった。JAG1 は多発奇形症候群Alagille症候群の責任遺伝子として広く認知される遺伝子である。TDにおけるJAG1 変異の高頻度な検出は,TDの分子機序に新たな洞察をもたらした。一方,JAG1 変異保有者のごく一部のみがTDを発症すると考えられ,古典的なTD責任遺伝子のように「メンデル遺伝」のフレームワークで説明される遺伝子異常ではない。本総説ではこれまでのTD研究の成果を概説するとともに,新たに発見されたTD関連遺伝子JAG1 の病的意義についても考察する。

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小児遺伝性髄様癌のRET 遺伝学的検査と外科治療

内野 眞也
医療法人野口記念会野口病院統括外科部長

Key words
◉ 多発性内分泌腫瘍症2型(multiple endocrine neoplasia type 2),◉ RET 遺伝子(RET gene),◉ 予防的甲状腺全摘(prophylactic total thyroidectomy),◉ 保険適用(insurance coverage)

要旨
多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)2型は甲状腺髄様癌・褐色細胞腫・副甲状腺過形成を発症する常染色体優性遺伝性疾患である。原因遺伝子はRET遺伝子であり,MEN2の99%以上に生殖細胞系列変異が証明される。MEN2家系のRET変異を有する小児に対しては,甲状腺髄様癌の早期発見・早期治療が可能となる。2016年4月に甲状腺髄様癌に対するRET遺伝学的検査が保険収載され,小児血縁者のキャリア診断がより一層行われていくと思われる。米国甲状腺学会の髄様癌に関するガイドラインでは,RET変異部位別に髄様癌のリスク分類を行い,小児に対して何歳で予防的甲状腺全摘を行うべきかを示している。わが国における保険医療制度では,髄様癌が発症する前の段階での「発症前甲状腺全摘」は自費診療となる。したがって,保険適用という観点から,カルシトニン誘発刺激試験により微小髄様癌あるいはC細胞過形成を診断し治療する「治療的早期甲状腺全摘」が選択されてくるものと思われる。

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投稿[症例報告]

橋本病経過中にクリーピング現象を伴う有痛性甲状腺炎を発症した1例

石川 素子*1,2,山田 芙久子*1,2,清水 尚子*1,2,白山 公幸*1,3,成田 琢磨*4,山田 祐一郎*5
*1:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系内分泌・代謝・老年内科学講座,*2:藤原記念病院内科,*3:藤原記念病院外科,*4:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系内分泌・代謝・老年内科学講座准教授,*5:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系内分泌・代謝・老年内科学講座教授

Key words
◉ 橋本病急性増悪,◉ クリーピング現象,◉ 抗サイログロブリン抗体

要旨
クリーピング現象は亜急性甲状腺炎の特徴の1つで,橋本病急性増悪と鑑別をする際に有用とされてきた。今回われわれは,橋本病の経過中に有痛性甲状腺炎を発症し,クリーピング現象を伴った1例を経験した。症例は55歳女性,左甲状腺の痛みを主訴に来院した。発症後1ヵ月で痛みが右葉上極へ移動し,さらに右葉下極へと移動した。エコー検査上も低エコー領域の移動がみられた。また,来院3年前との比較において,抗サイログロブリン抗体価が上昇していた。ステロイド薬と消炎鎮痛薬の投与で疼痛は改善した。発症3ヵ月後に著しい甲状腺機能低下症を呈し,レボチロキシンの補充を行った。橋本病に合併した亜急性甲状腺炎との鑑別が問題となったが,抗体価の上昇と持続高値,甲状腺ホルモンの変動より橋本病急性増悪との病像に近いと判断した。本症例は,クリーピング現象が橋本病急性増悪でも観察されうることを示唆する点で,貴重な症例と考えられる。

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Creeping pain during painful thyroiditis in a patient with Hashimotoʼs disease:A case report

Motoko Ishikawa*1,2,Fukuko Yamada*1,2,Naoko Shimizu*1,2,Kimiyuki Shirayama*1,3,Takuma Narita*4,Yuichiro Yamada*5
*1:Akita University School of Medicine/Department of Endocrinology and Diabetes and Geriatric Medicine, * 2:Department of Internal Medicine, Fujiwara Memorial Hospital, *3:Department of Surgery, Fujiwara Memorial Hospital, *4:Associate Professor, Akita University School of Medicine/Department of Endocrinology and Diabetes and Geriatric Medicine,*5:Professor, Akita University School of Medicine/Department of Endocrinology and Diabetes and Geriatric Medicine

Key words
Acute exacerbations of Hashimotoʼs thyroiditis, Creeping, Anti-thyroglobulin antibody

Summary
Creeping pain in thyroiditis is a feature of subacute thyroiditis, also known as “creeping thyroiditis”. We report a case of painful thyroiditis, with creeping pain, in a patient with Hashimotoʼs disease. A 55-year-old woman with a medical history of Hashimotoʼs disease of 3-year duration, presented with thyroiditis and pain originating in the left lobe. After 4 weeks,the pain had shifted to the opposing superior pole, on the right side, ultimately involving the inferior pole of the right side. A low echo area revealed on thyroid ultrasonography altered in relation to the pain. The anti-thyroglobulin antibody (TgAb) titer was elevated, in comparison to previous levels. Thyroid function was markedly reduced 3 months after the onset of pain. A differential diagnosis between subacute thyroiditis and acute exacerbation of Hashimotoʼs thyroiditis was problematic in this case. According to the elevation of TgAb level and the worsening of hypothyroidism during the clinical course, we regarded the case as an acute exacerbation of Hashimotoʼs thyroiditis. The case presented here suggests creeping pain can appear in an acute exacerbation of Hashimotoʼs thyroiditis, and is not specific to subacute thyroiditis.

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[症例報告]

術後に多発遠隔転移を生じた“腺腫様甲状腺腫”の一例

櫻井 桃子*1,羽二生 賢人*1,永井 絵林*1,徳光 宏紀*2,吉田 有策*2,尾身 葉子*2,坂本 明子*3,堀内 喜代美*4,岡本 高宏*5,澤田 達男*6,長嶋 洋治*7
*1:東京女子医科大学病院内分泌外科,*2:東京女子医科大学病院内分泌外科助教,*3:東京女子医科大学病院内分泌外科准講師,*4:東京女子医科大学病院内分泌外科講師,*5:東京女子医科大学病院内分泌外科教授,*6:東京女子医科大学医学部病理学第一講座教授,*7:東京女子医科大学医学部病理診断科教授

Key words
◉ 腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter),◉ 転移(metastasis),◉ 濾胞癌(follicular carcinoma),◉ サイログロブリン〔thyroglobulin(Tg)〕

要旨
【はじめに】甲状腺濾胞癌のなかには,良性腫瘍と鑑別しがたい組織像を呈する例がある。腺腫様甲状腺腫の術後に転移性濾胞癌と診断された症例を経験したので報告する。【症例】61歳男性。胸部レントゲン検査で気管偏位を認め,甲状腺腫大が疑われた。触診で鎖骨下に入りこむ5cm大の腫瘤を甲状腺左葉に認めた。頸部超音波検査では境界明瞭・辺縁整・haloを伴う充実性腫瘤であった。細胞診は良性であったが,血中サイログロブリン(Tg)値が 2,300ng/mLと高値であり,甲状腺左葉切除術を施行した。病理組織診断は腺腫様甲状腺腫であったが,術後4年目に肺転移を認めた。甲状腺補完全摘と放射性ヨウ素内用療法を勧めたが,本人の希望によりTSH抑制療法のみで経過観察とした。術後9年目に胸骨転移を,術後13年目に胸椎転移・脳転移を認め,1ヵ月後に永眠した。【考察】いわゆる「悪性腺腫」はまれであるが腫瘍径が大きく,充実性で,術前Tg高値を呈する症例は,術後Tg値の推移を観察するのがよいと思われる。

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甲状腺ホルモン製剤にて重症肝障害を来した橋本病の一例

傍島 光昭*1,半田 朋子*1,山口 麻里子*1,平山 将之*1,石川 孝太*1,水谷 直広*1,青木 聡典*2,酒井 優*3,近藤 國和*1
*1:愛知県厚生農業協同組合連合会安城更生病院内分泌・糖尿病内科,*2:同 消化器内科,*3:同 病理診断科

Key words
◉ 甲状腺ホルモン製剤(thyroid hormone formulation),◉ 橋本病(Hashimotoʼs thyroiditis),◉ 肝障害(liver injury),◉ 肝生検(liver biopsy)

要旨
症例は68歳女性。健診での胸部CTにて甲状腺腫大を認め紹介された。橋本病による甲状腺機能低下症と診断し,チラーヂン®S錠12.5µgを開始,1ヵ月後に25µgに増量した。治療前は肝障害を認めなかったが,増量3日後より食欲低下,全身倦怠感,皮膚の黄染を自覚。血液検査にて高度の肝障害を認めた。画像検査では軽度の腹水を認めた。各種ウイルスの抗原・抗体,肝炎関連自己抗体は陰性。チラーヂン®S錠25µgとチロナミン®5µgに対するDLST(Drug induced Lymphocyte Stimulation Test)は陰性。肝生検では薬剤性肝障害に矛盾しない結果であった。チラーヂン®S錠を中止したが,8ヵ月後も軽度肝障害が持続したため再度肝生検を施行。病理学的にも改善が乏しく,チラーヂン®S錠25µgにより惹起された病態が遷延している可能性が示唆された。チラーヂン®S錠は一般的に安全な薬剤と認識されており,肝障害の報告はきわめてまれであるが,副作用報告のなかには死亡例もあり注意が必要である。

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