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学会雑誌抄録

『日本甲状腺学会雑誌』2019年4月号(Vol.10 No.1)


[特集1]甲状腺腫瘍診療ガイドライン Update

甲状腺未分化癌の診療ガイドライン2018

低分化癌

甲状腺分化癌

[特集2] 甲状腺疾患とIgG4関連疾患

橋本病とIgG4甲状腺炎

Basedow病とIgG4甲状腺炎,IgG4関連疾患における甲状腺疾患

Riedel甲状腺炎とIgG4関連甲状腺疾患

甲状腺癌とIgG4 甲状腺炎

IgG4甲状腺炎におけるIgG4自己抗体の標的抗原の同定

投稿[症例報告]

無機ヨウ素(ヨウ化カリウム)単独治療が奏効した中等症以上のBasedow病10例

[特集1]甲状腺腫瘍診療ガイドライン Update

甲状腺未分化癌の診療ガイドライン2018

小野田 尚佳*1,野田 諭*2,石原 沙江*3,浅野 有香*3,田内 幸枝*4,森崎 珠実*4, 柏木 伸一郎*2,高島 勉*2,大平 雅一*5

*1:大阪市立大学大学院医学研究科乳腺・内分泌外科准教授,*2:大阪市立大学大学院医学研究科乳腺・内分泌外科講師,*3:大阪市立大学大学院医学研究科乳腺・内分泌外科,*4:大阪市立大学大学院医学研究科乳腺・内分泌外科病院講師,*5:大阪市立大学大学院医学研究科乳腺・内分泌外科教授

Key Word
◉ 甲状腺未分化癌(anaplastic thyroid cancer),◉ ガイドライン(guideline)

要旨
 未分化癌は,頻度は低いものの急激な進行と治療抵抗性を示す難治癌で,2010年版ガイドラインでは「有用な情報を提供することが困難な疾患」とされていた。大規模データベース研究などにより明らかにされた客観的疾患像をもとに改訂された2018年版では,進行度と予後因子に応じた標準的対処を推奨している。最新の放射線外照射法や分子標的薬の使用が可能となり,これまでの手術,放射線,化学療法による治療に加えた予後改善効果が期待される。一方で,予後はきわめて不良であることから,診断時からの全人的緩和医療の提供や,治療の益と害に配慮した慎重な方針選択も提唱されている。治療薬の開発,多施設共同臨床試験,網羅的遺伝子解析,全国的疾患登録システムの構築が進行中で,多くの分野・職種がかかわる研究・診療体制が広がっている。新知見が順次改訂版に収載され,未分化癌患者の予後やQOLのさらなる改善につながることを切望する。

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低分化癌

伊藤 康弘*1,2,廣川 満良*3,宮内 昭*4

*1:隈病院治験臨床試験管理科科長,*2:隈病院外科医長,*3:隈病院病理診断科科長,*4:隈病院院長

Key Word
◉ 低分化癌(poorly diff erentiated carcinoma),◉ 予後(prognosis),◉ 乳頭癌(papillary carcinoma),◉ 濾胞癌(follicular carcinoma)

要旨
 甲状腺低分化癌は高分化癌と未分化癌の中間的な存在とされ,予後も高分化癌よりも不良であり,未分化癌よりは良好である。しかし,低分化癌の定義は歴史的に一定せず,複数の定義が長らく存在していた。その後,いったん統一されたものの,WHO分類の低分化癌の定義がより悪性度の高い方向に再度改訂されたことにより,再び日本の『甲状腺癌取扱い規約』の定義との間に齟齬が生じている。本稿では,主として低分化癌の予後について述べる。濾胞癌症例において,取扱い規約に基づく低分化癌の予後は高分化癌より有意に不良であり,なおかつWHO分類に基づく低分化癌の予後との間に有意差は認められなかった。乳頭癌症例においては取扱い規約に基づく低分化癌の予後は高分化癌より有意に不良であり,WHO分類の低分化癌はさらに予後不良であった。このことから,日本における低分化癌の定義を完全にWHO分類の定義に変更するのではなく,現行の取扱い規約で低分化癌と診断されるが,新しいWHO分類では高分化癌とされるものも何らかの形で残しておくべきであると考えられる。

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甲状腺分化癌

岡本 高宏

東京女子医科大学医学部乳腺・内分泌・小児外科教授

Key Word
◉ 甲状腺分化癌(diff erentiated thyroid cancer),◉ リスク分類(risk classifi cation

要旨
 甲状腺分化癌の初期治療について,『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018』に沿って,概説した。乳頭癌では臨床所見で超低リスク,低リスク,中リスク,高リスクのいずれかにリスク分類し,濾胞癌では病理診断で広汎浸潤型と微少浸潤型とに分類してそれぞれの管理方針を推奨している。再発あるいは癌死のリスクに応じた臨床対応が甲状腺分化癌に対する初期治療の要であるが,高リスク乳頭癌あるいは広汎浸潤型濾胞癌において甲状腺全摘術,放射性ヨウ素内用療法,そしてTSH抑制療法が予後の改善に結びつくかは今後の検証課題である。

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[特集2] 甲状腺疾患とIgG4関連疾患

橋本病とIgG4甲状腺炎

李 亜瓊*1,覚道 健一*2

*1:山東大学付属山東省立病院病理科,*2:近畿大学医学部奈良病院中央臨床検査部病理診断科客員教授

Key Word
◉ 甲状腺(thyroid),◉ 免疫グロブリンG4(IgG4),◉ 橋本病(Hashimoto’s thyroiditis),
◉ 甲状腺炎(thyroiditis),◉ Basedow病(Basedow Disease)

要旨
 IgG4関連疾患の発見後,IgG4陽性形質細胞の増加/浸潤する甲状腺病変は,どの疾患が相当するか,多くの議論が交わされた。本特集が取り上げている橋本病,Basedow病,Riedel甲状腺炎にIgG4陽性形質細胞の増加が報告されている。われわれは,橋本病切除例の解析から,IgG4陽性形質細胞の増加する橋本病亜型を報告し,IgG4甲状腺炎と命名した。橋本病型のIgG4甲状腺炎は発症年齢が若い,男性の比率が高い,巨大な甲状腺腫をもつ,超音波検査でびまん性低エコー像を示す,甲状腺自己抗体価が高い,急速に甲状腺機能低下症に至る頻度が高い,といった特徴を示す。他臓器病変の合併は例外的でまれであることは,IgG4関連疾患と一線を画する特筆すべき点と考えている。IgG4陽性形質細胞の多寡を新たな切り口として,今まで単一疾患とされてきた橋本病の多様性/ 不均一性を明確に示しただけでなく,IgG4陽性形質細胞の多数出現する甲状腺炎に,急速進行性/臓器破壊型の特色があることを示した。まれな疾患であるIgG4関連疾患と比較して,橋本病は,圧倒的に頻度の高い疾患である。その一部であるIgG4甲状腺炎は,急速進行性で臓器機能破壊型の甲状腺炎で,甲状腺機能が破壊されるまでに治療開始が望まれる。現在までに,前方視的臨床研究はなされていないが,比較的予後良好の大多数の橋本病と急速進行性のIgG4甲状腺炎型の橋本病を区別して治療する時代の到来が近いと予想している。

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Basedow病とIgG4甲状腺炎,IgG4関連疾患における甲状腺疾患

竹島 健*1,赤水 尚史*2

*1:和歌山県立医科大学内科学第一講座助教,*2:和歌山県立医科大学内科学第一講座教授

Key words
◉ IgG4甲状腺炎(IgG4 thyroiditis),◉ Basedow病(Graves’ disease),◉ IgG4関連疾患(IgG4 related disease)

要旨
 IgG4関連疾患(IgG4-RD)は,リンパ球とIgG4 陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化により,全身諸臓器の腫大,臓器障害を来す疾患である。近年,橋本病,Basedow病,Riedel甲状腺炎などの甲状腺疾患とIgG4-RDとの関連が報告されている。われわれはBasedow病患者における血清IgG4値の臨床的意義について検討を行い,血清IgG4高値Basedow病患者の臨床的特徴を明らかにしてきた。本稿では,Basedow病(Basedow病眼症を含む),IgG4甲状腺炎およびIgG4関連疾患との関連性について既報を元にまとめるとともに,現時点でのIgG4関連疾患における甲状腺病変の位置づけを示しつつ,今後の展望と課題を提示したい。

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Riedel甲状腺炎とIgG4関連甲状腺疾患

西原 永潤
隈病院内科副科長

Key Word
◉ Riedel甲状腺炎(Riedel’s thyroiditis),◉ IgG4関連疾患(IgG4-related disease),◉ IgG4陽性形質細胞(IgG4 positive plasma cells),◉ 線維化(fi brosis),◉ 副腎皮質ホルモン(corticosteroid)

要旨
 Riedel甲状腺炎は非常にまれな疾患であり,病因はまだよくわかっていない。その病理像はリンパ球・形質細胞浸潤や線維化が甲状腺から周囲組織に及び,多臓器で同様の病変が認められることもしばしばある。そのため,IgG4関連甲状腺疾患のなかでは全身性変化を最も呈しているが,一方で,IgG4関連疾患(IgG4-RD)包括的診断基準の免疫学的所見に合致していない症例も多い。診断の際には,甲状腺未分化癌,甲状腺肉腫,リンパ腫,橋本病線維性亜型などと鑑別が必要になる。Riedel甲状腺炎の根治的手術は一般に困難であり,呼吸困難などの緊急時以外は薬物療法をまず念頭に置く必要がある。その際,IgG4-RDに準じた薬物療法選択が病勢コントロールに有効である。

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甲状腺癌とIgG4 甲状腺炎

廣川 満良*1,兼松 里紗*2,鈴木 彩菜*2,樋口 観世子*2,林 俊哲*3

*1:神甲会隈病院病理診断科科長,*2:神甲会隈病院臨床検査科,*3:神甲会隈病院病理診断科医長

Key Word
◉ IgG4関連疾患(IgG4-related disease),◉ IgG4甲状腺炎(IgG4 thyroiditis),◉ 橋本病(Hashimoto thyroiditis),◉ Warthin腫瘍様甲状腺乳頭癌(Warthin tumor-like papillary thyroid carcinoma)◉ 好酸球増多を伴う硬化性粘表皮癌(thyroid sclerosing mucoepidermoid carcinoma with eosinophilia)

要旨
 甲状腺癌とIgG4甲状腺炎に関する報告は少ない。IgG4陽性形質細胞の浸潤を伴う通常型乳頭癌,Warthin腫瘍様乳頭癌,好酸球増多を伴う硬化性粘表皮癌では背景にIgG4甲状腺炎を伴いやすいが,その形質細胞の出現はIgG4関連疾患の機序とは異なると思われる。また,IgG4甲状腺炎では乳頭癌の危険度が高く,IgG4陽性形質細胞の存在が乳頭癌の発生に関与していることが推定されている。

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IgG4甲状腺炎におけるIgG4自己抗体の標的抗原の同定

猪俣 啓子*1,永淵 正法*2,山下 弘幸*3

*1:やました甲状腺病院診療技術部部長,*2:佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科特任教授,*3:やました甲状腺病院院長

Key Word
◉ 免疫グロブリンG4(IgG4),◉ IgG4関連疾患(IgG4-related disease),◉ 甲状腺炎(thyroiditis),◉ サイログロブリン(thyroglobulin),◉ 臓器特異的抗原(organ-specifi c antigen)

要旨
 甲状腺疾患において,甲状腺組織にIgG4陽性細胞の浸潤増加が認められる甲状腺炎(IgG4甲状腺炎)は,Riedel甲状腺炎,橋本病,Basedow病で報告されているが,IgG4甲状腺炎の多くは,他臓器でのIgG4関連疾患の発症が認められず,甲状腺組織に限局して発症する臓器特異的タイプである。また,IgG4甲状腺炎では,術前に上昇していた血清IgG4が,甲状腺摘出後に低下することが確認されている。われわれは,IgG4甲状腺炎患者のIgG4抗体が甲状腺抗原を認識していると推論し,IgG4甲状腺炎患者の血清と甲状腺抗原を用いたウェスタンブロッティングとペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)法により,IgG4抗体の標的抗原をサイログロブリンとそのアイソフォームと同定した。甲状腺特異抗原であるこれらの蛋白質の同定は,IgG4甲状腺炎が臓器特異的疾患であり,全身的な関与がきわめてまれである理由の説明を可能にした。

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投稿[症例報告]

無機ヨウ素(ヨウ化カリウム)単独治療が奏効した中等症以上のBasedow病10例

藤川 潤*1,岡村 建*2

*1:藤川めぐみクリニック,*2:九州大学病態機能内科

Key Word
◉ Basedow病,◉ 無機ヨウ素,◉ ヨウ化カリウム

要旨
 治療前のFT4が5.0 ng/dL以上で,ヨウ化カリウム(KI)単独治療が奏効し,1年以上エスケープなくコントロールできたBasedow病10例を経験した。中等症以上のBasedow病でも,KIで良好な経過をとる症例群が少数派ながら存在する。これは予想を超える無機ヨウ素効果の可能性と,その効果を事前に予測することの困難さも示している。本報告がBasedow病治療薬としてKIを選択する際の一助となることを期待したい。

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Ten cases of moderate to severe Graves’ thyrotoxicosis (FT4 5.0 ≦ ng/dL) successfully treated by potassium iodide.

Megumi Fujikawa*1, Ken Okamura*2

*1:Fujikawa Megumi Clinic, * 2:Department of Medicine and Clinical Science, Graduate School of Medical Sciences Kyusyu University

Key Word
Graves’ disease, Th yrotoxicosis, Inorganic iodide, Potassium iodide

Summary
Th e administration of inorganic iodine has failed to become a major therapy for Graves’ disease due to concerns about its effi cacy and escape phenomenon. We herein report 10 cases of moderate to severe (fT4 5.0 ≦ ng/dL) Graves’ thyrotoxicosis successfully treated for more than 1 year by the administration of potassium iodide (KI:50- 200 mg/day) with or without levothyroxine sodium. Th ese cases suggest that even in moderate to severe Graves’ thyrotoxicosis, some of the patients are highly sensitive to excess iodine. Given the high incidence of side eff ect by thionamide therapy, KI may possess alternate possibility for the treatment of Graves’ disease.

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